高齢化に伴う需要増が期待できることから、介護施設の開業を検討している方は多いのではないでしょうか。
介護事業を新規で開業する際に、国や自治体から助成金の支給を受けられる可能性があります。助成金は融資と異なり、返済義務がないうえに使途自由である点が大きなメリットです。
この記事では、介護事業所の開業費用の目安、また受給できる可能性がある助成金について解説していきます。
助成金の対象となる介護施設
政府は、福祉人材を確保するために介護人材確保に向けた取り組みを行っています。
取り組みの一環として、条件を満たした事業所に対して助成金を支給し、運転資金の事業投資に充てることを期待しています。
厚生労働省によると、助成金の対象となる事業所は下記に該当する「介護保険法の規定によるサービス」と「その他の介護サービス」です。
出典:厚生労働省
基本的には、ほぼすべての介護事業所が助成金の対象になると考えて差し支えないでしょう。
ただし、助成金制度の適正運営や不正受給を防ぐために、下記に該当する事業所は助成金が支給されない点に注意しましょう。
- 労働保険料の滞納申請日において、労働保険料を2年を超えて滞納している事業主
- 給付金の不正受給申請する日から遡って3年以内に、偽りその他の不正行為により、雇用保険二事業に係る各種給付金を受け、または受けようとした事業主
介護施設を開業する際の初期費用
介護事業所を開業するにあたって必要となる初期費用は、提供するサービスの種類や希望に応じて異なります。
一般的に500~1500万円程度の初期費用が必要になるといわれており、慎重に資金計画を立てることが大切です。
【介護施設を開業するときに発生する初期費用】
- 法人設立費
- 物件取得・改修費用
- 設備費
- 車両費
- 人件費
- 当面の運転資金
また、下記のように継続的に発生するコストもあります。
- 人件費
- 家賃
- 光熱費
- 通信費
- 車両費、ガソリン代、リース代
- 消耗品費
資金繰りを楽にするためにも、助成金を活用する意義は大きいです。
介護施設の開業で受給できる助成金
介護施設を開業して間もないうちは、資金繰りに苦労する可能性が考えられます。
開業したときにもらえる可能性のある助成金を把握し、該当する可能性がある場合は有効活用しましょう。
介護労働環境向上奨励金
介護労働環境向上奨励金とは、介護労働者の身体的負担の軽減や賃金など処遇の向上、職場環境の改善などを行った事業主に対して支給される助成金です。
「介護福祉機器等助成」と「雇用管理制度等助成」の二つがあり、新たに介護福祉機器を導入したケースや雇用管理改善につながる制度等を導入すると、助成金対象となります。
それぞれ導入費用の2分の1が支給され、介護福祉機器等助成は最大300万円、雇用管理制度等助成は最大100万円となっています。
特定求職者雇用開発助成金
特定求職者雇用開発助成金は、ハローワーク経由で高齢者や母子家庭の母親など、一般的に就職するのが困難な人材を採用した事業主に対して支給される助成金です。
介護業界は人手不足の状況にありますが、特定求職者雇用開発助成金を有効活用すれば、人材を確保しつつ助成金を受給して資金繰りを改善できる可能性があります。
【特定求職者雇用開発助成金の対象者】
- 高年齢者(60歳以上)
- 母子家庭の母
- 重度障害者等を除く身体・知的障害者
- 重度障害者等
なお、特定求職者雇用開発助成金の支給額は下記のとおりです。
出典:厚生労働省 特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)
特定求職者雇用開発助成金は、短時間労働者も対象となります。
トライアル雇用助成金
トライアル雇用助成金とは、職業経験の不足などから就職が困難な求職者を、ハローワーク経由で採用した際に受給できる助成金です。
3カ月のトライアル期間を経て、無期雇用契約へ移行したときに助成金対象となり、未経験者でも人材を確保したい際に有効活用できます。
人材を確保し、育成しながら助成金を受給できる点が大きなメリットです。
介護施設の職場環境を整備したときにもらえる助成金
開業したときに限らず、介護施設の職場環境を整備したときにもらえる助成金も存在します。
介護施設を開業した後に、資金繰りに苦労する可能性もあることから、申請できる可能性がある助成金を知っておくことは大切です。
人材確保等支援助成金(介護福祉機器助成コース)
人材確保等支援助成金(介護福祉機器助成コース)は、介護事業主が下記の介護福祉機器を導入して、離職率の低下に取り組んだ場合に受給できる助成金です。
- 移動・昇降用リフト(立位補助器、非装着型移乗介助機器を含む。)
- 装着型移乗介助機器
- 体位変換支援機器
- 特殊浴槽
<支給申請の流れ>
出典:厚生労働省 人材確保等支援助成金介護福祉機器助成コースのご案内
最大150万円が支給されるため、仕事を効率化して人材定着を図りながら資金繰りを改善できるでしょう。
働き方改革推進支援助成金
働き方改革推進支援助成金とは、仕事の生産性を向上させ、時間外労働の削減や年次有給休暇や特別休暇の促進などに取り組んだ中小企業事業主に支給される助成金です。
支給対象となる事業主が、下記の取り組みの中で1つ以上取り組んでいる場合、助成金を受給できます。
- 労務管理担当者に対する研修
- 労働者に対する研修、周知・啓発
- 外部専門家(社会保険労務士、中小企業診断士など) によるコンサルティング
- 就業規則・労使協定等の作成・変更
- 人材確保に向けた取組
- 労務管理用ソフトウェアの導入・更新
- 労務管理用機器の導入・更新
- デジタル式運行記録計(デジタコ)の導入・更新
- 労働能率の増進に資する設備・機器等の導入・更新
働き方改革推進支援助成金では、最大730万円が受給できます。
介護は心身の負担が重い仕事です。
人材確保等支援助成金を通じて、助成金という経済的メリットだけでなく、業務を効率化して従業員の満足度を高められるメリットも期待できます。
デジタル機器導入促進支援事業
デジタル機器導入促進支援事業とは、各都道府県が行っており、介護事業所がICT機器を活用して介護業務の負担を軽減した際に必要な経費の一部を補助する補助金制度です。
例えば、東京都の場合は下記の機器を導入した際に、最大260万円の補助を受けることができます。
- ソフトウェアやクラウドサービス
- タブレット端末・スマートフォン等のハードウェア
- Wi-Fiルーターなどのネットワーク機器(購入費、設置費)
- 他事業者からの照会等に応じた経費
出典:公益財団法人 東京都福祉保険財団 令和5年度デジタル機器導入促進支援事業
介護事業を効率よく運営するためには、人手だけでなくICTの活用も重要です。
政府ではなく自治体が行っている助成金や補助金制度についても調べることで、開業費用だけでなく運営費用の負担を軽減できるでしょう。
次世代介護機器導入促進支援事業
次世代介護機器導入促進支援事業とは、介護従事者の身体的負担の軽減や業務を効率化するために、次世代介護機器や見守り支援機器を導入した事業主に対して必要な経費の一部を補助する制度です。
ICT導入支援事業補助金と同じく、各都道府県が行っている補助金制度です。
なお、自治体によっては「介護ロボット導入支援事業補助金」という名称で行われています。
東京都の場合、最大1500万円の補助金が受給できることから、大きな経済的援助と言えるでしょう。
出典:公益財団法人 東京都福祉保険財団 令和5年度 次世代介護機器導入促進支援事業
両立支援等助成金
両立支援等助成金とは、仕事と家庭の両立支援に取り組む事業主に対して支給される助成金です。
- 出生時両立支援コース
- 介護離職防止支援コース
- 育児休業等支援コース
上記のコースがあり、男性の育児休業取得の促進や仕事と介護の両立支援を行ったときに、助成金を受給できます。
育児や介護を理由に従業員が離職してしまうのは、事業主にとっても従業員にとっても痛手です。
両立支援等助成金を活用すれば、従業員が安心して復帰できるだけでなく代替従業員を確保するための資金を工面できるでしょう。
運転資金にゆとりがあれば出店地候補の選択肢が増える
助成金は返済する必要がなく、使途自由な特徴があります。
助成金を有効活用すれば運転資金にゆとりが生まれ、安定した介護事業経営が可能となります。
また、安定した介護事業運営を実現するためには、立地を考えることも非常に大切です。
騒音が多く利用者・入居者が快適に生活できない場所や、競合が多いエリアで開業すると、想定通りに収益を得られない恐れがあるためです。
資金繰りの関係で出店候補地の選定を妥協すると、長期的に大きな機会損失を被ることになりかねません。
助成金や補助金を活用することで、開業時の初期費用や継続的に発生する費用を圧縮でき、出店候補地の選定の選択肢を増やすことができます。
介護施設は今後需要が高まり続けることが予想でき、長期的に安定した収入が見込めますが、出店候補地の選定を軽視するべきではありません。
介護施設の運営に適した土地を探している方や、どのような土地を選ぶべきか判断に迷っている方は、「タカオ」で専門家のアドバイスを受けることをおすすめします。
助成金申請の注意点
助成金は、事業主の資金繰りを楽にしてくれる非常にありがたい存在です。
しかし、助成金の申請をするにあたって注意するべきポイントがあります。
前提条件をクリアする
助成金を受給するためには、所定の条件をクリアする必要があります。
また、下記のように助成金を受給するうえで前提となる条件もあるため、クリアしているかどうか確認することが大切です。
- 雇用保険の適用事業主であること
- 対象労働者の賃金を支払っていること
- 労働保険料を滞納していないこと
- 採用日前後6か月間に事業主都合による解雇をしていないこと
- 支給決定がなされた者を、支給申請日の前日から過去3年間に、その助成対象期間中に事業主の都合により解雇・雇止め等をしていないこと
申請期限がある
助成金には申請期限が設けられているため、遵守することも大切です。
例えば、特定求職者雇用開発助成金の申請期限は「各支給対象期の末日の翌日から2カ月以内」となっています。
申請期限を過ぎると、たとえ要件をクリアしていた場合でも助成金が受給できない恐れがあり、非常にもったいないです。
もし書類の準備などに手間取り、申請期限に間に合わない恐れがある場合は、早めに都道府県の労働局へ相談しましょう。
そもそも申請しなければ受給できない
助成金は、そもそも申請しなければ受給できません。
要件を満たせば自動的に受給できるわけではないため、申請忘れをしないように気を付けましょう。
また、政府が取り扱っている助成金だけでなく、各自治体が独自で行っている助成金や補助金制度もあります。
積極的に情報を収集して、受給できそうな助成金などがあれば有効活用しましょう。
介護施設を開業するときは助成金を活用しよう
高齢化が進み高齢者人口が増加する日本においては、介護施設の需要は高まっていくでしょう。
開業資金だけでなく当面の運転資金を工面するためには、自己資金や融資を受けるだけでなく助成金も上手に活用することが大切です。
また介護施設を開業後、スムーズに収益を上げるためには出店候補地の選定を慎重に行うことも重要です。
介護事業所を開業するにあたって出店候補地の選定で迷っている方は、福祉施設の事業立ち上げ支援や土地活用のご提案を行っているタカオのサポートを受けながら考えてみませんか?