賃貸経営者や不動産を所有する方の中には、シニア向け賃貸への参入に関心がある方もいるのでしょう。
国内の高齢者人口増加に伴い、シニア向け賃貸の需要は今後高まっていく可能性があります。
この記事では、シニア向け賃貸経営において収益を得る方法や、建設費などについて詳しく解説していきます。ぜひ最後までご覧いただき、シニア向け賃貸の経営について理解を深めていただければ幸いです。
シニア向け賃貸経営は土地活用における良い選択肢なのか?
高齢者は年金で生活を行っている方が多く、与信やリスクの観点から通常の賃貸住宅を借りられないというケースが起こり得ます。
また自立した生活が難しくなったり、配偶者との死別をきっかけにしたりして、戸建てから引っ越しを検討する高齢者は今後増えていく可能性もあります。
そこで、引っ越し先の候補として、シニア向け賃貸住宅は1つの選択肢となるでしょう。
したがってシニア向け賃貸の経営は、今後一定の需要が見込まれると考えられます。
シニア向け賃貸の種類
シニア向け賃貸は、介護サービスの有無や提供するサービスの内容によっていくつかの種類が存在します。
- サービス付き高齢者住宅
- 介護付き有料老人ホーム
- 住宅型有料老人ホーム
代表的な3つの施設について、それぞれの特長を解説していきます。
サービス付き高齢者住宅
サービス付き高齢者向け住宅は「サ高住(さこうじゅう)」と略され、高齢者が安心して自立した生活を行うための施設です。
入居者の代わりに買い物に行くことや病院へ付き添うといった身の回りの支援、夜間から明け方の安否確認といったサポートを受けることができ、入居者が安心して暮らせる環境が魅力です。
外出や外泊が認められている施設もあり、比較的自由度の高い生活を送ることもできます。
介護付き有料老人ホーム
介護付き有料老人ホームは24時間介護スタッフが常駐し、食事や入浴、排泄など入居者の身の回りのサポートを行う施設です。
生活支援の他に、本格的な介護サービスの提供も行っています。
要介護の方だけが入居できる介護専用型と、自立した方と要介護者の両方が入居できる混合型の2種類に分かれています。
看護やリハビリのサポートといったサービスを受けることも可能となっており、入居者の状態に応じて幅広いサポートが受けられる点が特徴です。
住宅型有料老人ホーム
住宅型有料老人ホームは、生活支援などのサービスが利用できる高齢者向けの住宅です。
入居者が必要とする生活支援や介護サービスは外部から手配することも可能となっており、これまで利用していた介護サービスを入居後も引き続き利用することができます。
高齢者向け賃貸に入居する人とは?
実際に高齢者住宅に入居している方というのはどのような方なのかについて、統計資料などをもとに解説していきます。
75歳以上の方がボリュームゾーンとなり得る
国土交通省の資料によると65歳~84歳の人口が2025年にピークを迎え、2060年まで85歳以上の人口が増加していきます。
資料内のアンケートでは一人暮らしの高齢者が介助の必要性を感じた場合、介護施設や介護サービスのついた住宅での生活を希望すると回答した方が多くいるという結果となりました。
75歳以上の高齢者が増えていくなかで、介護を必要とする高齢者が増加した場合、高齢者向け賃貸の需要は高まっていくと考えられます。
自立している方も多い
同様の資料において高齢者の9割以上は在宅で生活を送っているとのデータが示すように、高齢者の多くは、自立した生活を送っていると言えます。
そのため介護サービスを提供するシニア向け賃貸施設だけではなく、現在介護サービスを必要としていない高齢者に向けた賃貸住宅の提供も、選択肢の1つとして検討できるでしょう。
シニア向け賃貸の建設に必要な費用
実際にシニア向け賃貸の建設にはどのくらいの費用がかかるのかについて、代表的な費用とともに解説していきます。
土地購入費
施設の建設には、当然土地が必要になります。
土地の価格は地域によって異なるため一概に費用を算出することは難しいですが、賃貸の建設には数百~千数百㎡の土地が必要となりますので、建設を検討する土地に応じて必要な金額を算出しましょう。
建設費
土地を購入したら賃貸施設の建設費用の算出に移ります。
シニア向けに介護サービスを提供しない賃貸施設を建設する場合は、一般の賃貸住宅建設と費用はそれほど変わらないと考えられます。
介護サービスを含む施設を建設する場合は、国が定めた設備基準を満たした施設を設計する必要がある点を頭に入れておきましょう。
備品購入
施設運営のためには各種備品の購入が必要となります。
テーブルやイスなどの什器をはじめ、事務用品、施設内の電話回線といった基礎的な備品に加えて、施設の特性に合わせた備品の手配が必要です。
例えば医療機関などへの送迎サービスを提供する場合、車両関係費の発生が見込まれます。
人件費などの費用
施設建設の際に専門家へ相談する場合は、人件費も盛り込む必要があります。
賃貸経営や介護施設を初めて経営する場合は、土地活用などの実績のある専門家への相談を行うことで建設費の最適化が期待できるでしょう。
シニア向け賃貸の収益構造
実際にシニア向け賃貸を経営するためには、収益構造を理解しておく必要があります。ここからは、賃貸経営における主な収益源について解説していきます。
賃料
最も代表的な収益源は利用者から得られる賃料です。賃料は立地や施設の提供価値などによって変動します。
収益を確実に得るためには、設計段階から立地、間取り、部屋の広さといった利用者が見て魅力を感じる賃貸施設に仕上げられるように工夫を行いましょう。
サービス料
賃料の他にシニア向け賃貸ではサービス料も収入として考えることができます。提供するサービスの代表例は、入居者の買い物のサポートや外出支援、医療機関への送迎、安否確認などです。
その他にも施設内でのレクリエーションや、運動機能維持のためのアクティビティなどを提供する施設も存在しています。
サービスの提供内容によっては施設の内装などにも影響するため、施設建設時に提供するサービスやコンセプトを明確に定めておくとよいでしょう。
食費
施設内で食事を提供する場合は、入居者から食事代をもらうことが可能です。
食事の内容は、入居者の年齢や要介護の度合いによって検討する必要がありますが、入居者1人1人に合わせた食事提供というのは難しいものです。
食事を提供する際は、入居者の健康面の度合いによって数パターンのメニューを提供するというのが現実的です。
介護報酬
介護サービスを提供する施設であれば、市区町村から支払われる介護報酬も貴重な収入源となります。
介護報酬とは介護サービスを提供した費用のうち、1割~3割を被保険者(入居者)が負担し、残りを保険者(市区町村)がサービス提供者へ支払う仕組みです。
介護報酬は3年ごとに改定されるため、介護報酬をメインの収入源とすることは避けるべきです。
シニア向け賃貸施設を運営する事業者の場合の注意事項
シニア向け賃貸施設の事業を運営するには、注意すべきポイントがいくつか存在しています。
高齢者施設を運営するにあたり、注意すべきポイントを、シニア向け賃貸施設での土地活用をご検討の地主様にも参考までの知識として記載しております。
以下が、代表的な3つの注意点です。
- 施設建築には、国の定めた基準を満たす必要がある
- 資格を持ったスタッフの配置が必要
- 介護報酬の改定を理解する
特に介護報酬改定の部分は非常に重要なトピックになるため、必ず理解しておきましょう。
施設建設には、国の定めた基準を満たす必要がある
介護サービスを提供する施設の場合、国が定める「設備基準」をクリアする必要があります。
設備基準の具体的な例としては、廊下の幅を1.8m以上にしなければならないといった点や、食堂や居住空間における1人あたりの面積、防火設備などがあげられます。
設備基準はすべてクリアしなければ、施設の開業が認められません。建設開始前に必要な要件は必ずチェックしておきましょう。
資格を持ったスタッフの配置が必要
介護サービスを提供する高齢者向け賃貸の場合、必ず配置しなければならない「人材基準」が存在します。
設備基準同様に、人材基準を満たしていないと施設の開業を行えないため注意しましょう。
開業する業態によって配置が必要な人材は異なるため事前の確認は必要となりますが、介護サービスを提供する施設において必要となる主な人材は下記のとおりです。
- 管理者
- 看護師
- ケアマネージャー
- サービス提供責任者
- 介護職員
- 生活相談員
- 社会福祉士
- 精神保健福祉士
介護報酬の改定を理解する
介護サービスを提供する場合、介護報酬の改定については必ず理解を深めておく必要があります。
介護報酬は3年ごとに改定されるため、必ず動向を追っていきましょう。
介護報酬は近年引き下げの傾向が続いており、介護報酬に頼った施設経営は推奨しません。
以下の表は、平成15年以降の介護報酬改定率の推移となります。
【介護報酬の改定率の推移】
年度 | 改定率 |
平成15年度 | ▲2.3% |
平成18年度 | ▲2.4% |
平成21年度 | 3.0% |
平成24年度 | 1.2% |
平成27年度 | ▲2.27% |
平成30年度 | 0.54% |
令和3年度 | 0.70% |
厚生労働省「令和3年度介護報酬改定の主な事項について」をもとに作成
シニア向け賃貸経営のリスクには注意
シニア向け賃貸の経営の際には、リスクについても理解しておきましょう。高齢者の多くは年金をメインの収入源としているため、貯金がなくなってしまった場合、家賃やサービス料を滞納してしまうリスクがあります。
シニア向け賃貸経営を行うにあたっては、介護事業者の撤退リスクについても理解が必要です。
日本の人口の高齢化が進む中で、介護事業の需要は増加していると見られますが、入居者の獲得競争が激化することによる倒産企業は増加しているのが現状です。
また、近年ではコロナウイルス感染症まん延による売り上げの減少、感染対策の為の経費増や水道光熱費の上昇、物価高などこれまでとは異なる複合的な要因によって倒産に至るケースもあります。
介護事業者の選定にあたっては、専門家のアドバイスに頼りながら、信頼のおける介護事業者を選定することが非常に重要です。
高齢者の多くは年金をメインの収入源としているため、貯金がなくなってしまった場合、家賃やサービス料を滞納してしまうリスクがあります。
物件内での病気や怪我のリスクにも注意が必要です。高齢者が入居する場合、思いもよらぬところでの事故によって入居者が怪我を負ってしまう恐れがあります。
また、最も注意すべきは孤独死です。介護サービスを提供する場合は、介護職員のチェックによって死亡事故などを未然に防ぐことができる可能性があります。
しかし、介護サービスを提供しない高齢者向け賃貸物件の場合は、孤独死の発見が遅れてしまうことも考えられます。
遺体の腐敗が進んでしまい、リフォームや特殊清掃が必要となると「事故物件」の扱いとなり、物件価値の下落に繋がりかねません。
まとめ
シニア向けの賃貸住宅は高齢者人口の増加により、需要の高まりが見込まれます。
ただし、施設建設においてクリアしなければいけない条件や、リスクを正しく理解しておく必要があります。
株式会社タカオでは、これまでの高齢者施設経営の建築実績や福祉事業者の立ち上げ支援の経験から、シニア向け賃貸住宅経営の支援を行うことが可能です。ぜひお気軽にお問い合わせください。