障害者施設を開業するためには、指定権者(都道府県、政令指定都市、中核市のいずれか一つ)の指定を受ける必要があります。
指定を受けるまでには「事業計画書の作成」「法人登記」「物件の準備」「人員の確保・教育」「利用者の募集」など考えるべきことは少なくありません。
今回は複雑な開設の手続き方法を「6ステップ」に分けて解説します。
また、障害者施設を運営する際の注意点についても合わせて確認していきましょう。
障害者施設とは
福祉サービスを法律ごとに分けると「高齢者」「障害者」「児童」の3つに分類されます。※「障害がある高齢者」など2つ以上の法律が適用されるケースもあります。
障害者施設は「障害者総合支援法」に基づく施設のことを指し、障害者グループホームなどが該当します。
高齢者
■介護保険法:介護保険サービス
(例)介護老人福祉施設(一般的に「特養」と呼ばれています)や介護老人保健施設(老健)など
障害者
■障害者総合支援法:障害福祉サービス
(例)障害者グループホーム、重度障害者等包括支援など
児童
■児童福祉法:児童福祉サービス
(例)放課後等デイサービス、児童発達支援(療育)など
開業までの流れ
障害者施設を開業するまでの全体的な流れを、6つのステップで解説していきます。
申請書類、申請期限は指定権者ごとに設定されているため、円滑に必要な手続きを完了させるためには指定権者の担当窓口へのスケジュール確認をおすすめします。
ステップ① | 事業計画書の作成 |
ステップ② | 法人登記を行う |
ステップ③ | 物件の設置基準を満たす |
ステップ④ | 人員配置基準を満たす |
ステップ⑤ | 指定申請手続きを行う |
ステップ⑥ | 開業 |
ステップ①事業計画書の作成
事業計画書は指定申請、融資を受ける際に必要な書類です。障害者施設を「いつ」「どこに」「どのような目的で」設立するのかなど、審査に必要な内容を記入します。
事業計画書を作成する際に必要な情報
事業計画書を作成するための要素として「マーケティング」「サービス内容」「資金計画(融資)」が重要です。
マーケティング
開業予定地域の市場性、競合の状況のリサーチを行います。他社の状況については「事業所数」「定員数」「法人種別(営利・非営利)」「新規事業所の稼働率」などの確認が必要です。
サービス内容
マーケティング調査の結果を元に、開業予定地域における需給バランス(充足率)のデータを集め、サービス種別を決定します。
施設の形態(「通所型」「入居型」「訪問型」)や利用者の定員数によって物件の広さ・必要な設備が変わるため、施設の形態と規模についても慎重に検討しましょう。
資金計画(融資)
サービス種別、施設の形態、規模が決まったら、資金計画を作成します。
開業資金の準備方法は「自己資金」「融資」があります。
「融資」を利用する場合「日本政策金融公庫」「銀行」「信用金庫」など融資先をどこにするか、検討します。
ステップ②法人登記を行う
障害福祉事業の指定を受けるためには、法人格の取得が必要です。
法人格の種類は公営と私営の2種類に大別され、私営では社会福祉法人や医療法人など8種類に分類されています。
画像:施設・障害者サービス等・障害児通所支援等事業所の種類(厚生労働省)
事業者の指定を受けるには法人化が必須
障害福祉事業においては「株式会社」「合同会社」「一般社団法人」「NPO法人」から選択することが多いため、こちらの4種類の法人について、ご説明します。
最初に法人格を取得する際の費用面(「最低資本金」「定款印紙税」など)の違いについて下記の表でまとめていますので、ご参照ください。
※画像:筆者が作成
次に、各法人ごとの特徴を説明します。
株式会社
株式を発行して出資者からお金を集め、その資本を用いて営利事業を行う法人形態。最も一般的な法人格。
・メリット:社会的信用度が高い、株式を発行して資金調達が可能。
・デメリット:設立費用が高い。役員任期があり、任期満了の都度、登記が必要。
合同会社
出資者自身が会社執行権限を有し会社の業務を行う、所有と経営が一致している法人形態。
・メリット:設立費用が比較的安い。経営の自由度が高い。
・デメリット:知名度が低い。資金調達方法が限られる。上場ができない。
一般社団法人
「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」に基づき設立された、営利を目的としない法人形態。
・メリット:社員2名で設立可能。小規模事業所の立ち上げに向いている。
・デメリット:役員任期があり任期満了の都度、登記が必要。上場ができない。
特定非営利法人(NPO法人)
ボランティア活動をはじめとする市民の自由な社会貢献活動として、特定非営利活動の健全な発展を促進する目的で作られた法人形態。
・メリット:社会的信頼性が高い。法人税などの税制優遇措置がある。
・デメリット:活動内容に制限がある(公益性が重要なため、審査が厳格)。
法人格は目的に応じた選択が重要
たとえば、できるだけ多くの資金を集めたい場合は「株式会社」、株式会社よりも自由な経営を目指したい場合は「合同会社」、非営利で社会問題の解決が目的であれば「NPO法人」、など目的に応じた法人格を選択すると良いでしょう。
尚、すでに法人格を持っている事業者が新規事業として障害福祉事業を始める場合は、定款の「事業目的」を変更する必要があるのでご注意ください。
ステップ③物件の設置基準を満たす
障害者施設にはサービス種別ごとに設置基準が設けられており、その基準を満たす必要があります。
基準に適合しているかどうかを行政機関が調査し、事前協議を行います。
サービス種別が同じでも指定権者ごとに多少、要件の違いがあります。事前に管轄の指定権者へ要件を確認しておきましょう。
調査・事前協議
行政機関の都市計画課、建築指導課、または消防署などで物件の適合性を調べるとともに、指定申請を受け付ける部局で事前協議を行います。
不適合箇所がある場合、物件の改装や設備の設置などが必要になります。
法定設置基準
障害者施設は利用者、入居者が安全に利用するための設備を設置する必要があります。
ここでは建築基準法、消防法の要件について確認していきます。
建築基準法
建築基準法では、建築物の使用目的を示す「用途」が定められています。
用途別に窓の大きさや排煙設備、階段の高さ、手すりの設置位置など細かなルールを守らなければなりません。
消防法
建築基準法と同様に、消防法でも建築物によって防火対象物の「用途区分」が定められています。
用途区分は「1項」~「20項」に分けられており、福祉系施設は「6項」に該当しています。
消防法で必要とされる設備の例として「消火器」「自動火災報知機」「誘導灯」などがあり、床面積や収容人員によっては設置が義務付けられているため、事前に消防局へ確認を行いましょう。
賃貸借契約
事業所物件の賃貸借契約は「法人名義」での署名押印が必要です。
つまり、契約締結の前には法人格の取得が必須になりますので、計画的に法人格の取得についても準備を進めていきましょう。
ステップ④人員配置基準を満たす
開業申請前に人員の確保が必要です。また、職員を募集する前には求人票、就業規則、賃金テーブル、採用計画の作成を行い、面接の実施者についても決めておかなければなりません。
尚、雇用契約書の内容は各種労働法規に準拠している必要があります。雇用契約の締結時は、社会保険労務士などの専門家へのご相談をおすすめします。
人材の確保
サービス種別ごとに必要な人員が決まっているため、人員要件を確認しておく必要があります。
必要な資格、経験
下記、厚生労働省の人員配置基準で定められている職員の配置が必要です。たとえば訪問看護では「サービス提供責任者」の配置が必須となります。
一般的に、有資格者の確保は難しい傾向があるため、余裕をもった採用スケジュールが必要です。人員の確保が整わない状態で、次のスケジュールに進むことはリスクがあることを理解しておきましょう。
運営に必要な人数
利用者へ良質なサービスを提供するため、前述の有資格者を含め、施設運営に必要とされる人数も法律で細かく定められています。
一例として、障害者グループホームの場合、利用者4名に対して世話人を「1名分」配置しなければなりません。
開業後、配置する人員が不足した場合には行政処分(介護報酬の減算、指定取り消しなど)を受けることがありますので、余裕を持った採用計画を立てておきましょう。
【参考】
障害福祉サービスでは「常勤換算」という方式で人員をカウントしています。
常勤職員が1週間に40時間(1日8時間×5日間)勤務している場合、パート職員2名で1日4時間ずつ5日間勤務すると1週間に40時間勤務することになり「1名分」とカウントされます。
①常勤職員が1週間に40時間(1日8時間×5日間)
②パート職員が1週間に20時間(1日4時間×5日間)×2名=1週間に40時間
①②ともに「1名分」とカウントできる。
出典:共同生活援助に係る報酬・基準について≪論点等≫(厚生労働省)P.32
ステップ⑤指定申請手続きを行う
指定申請書の提出期限は、開業予定日の前々月の15日、もしくは前々月の末日に設定している指定権者が多いです。
(例)開業予定日:6月1日→提出期限:4月15日、もしくは4月30日
つまり、指定権者の審査は1カ月間掛かるということです。
行政機関への指定申請
指定権者への指定申請の手順を説明します。申請書は約30種類ほどありますので、計画的に作成を進めていきましょう。
事前相談・事前協議
指定申請を行うために、前もって事前相談や事前協議が必要な指定権者もあります。
事前に電話などで来庁日時を予約する必要がある場合もありますので、予め指定権者へのご確認をおすすめします。
申請書類を整える
申請書類を作成し、提出できる状態に整えます。
多くの指定権者が「申請書類の作成手引き」を作成していますので、必ず確認しましょう。
尚、申請書類の書き損じや不備があった場合には、補正期間(修正できる期間のこと)に再提出や修正が必要になります。補正期間についても確認が必要です。
以下、申請書類の一例をご紹介させていただきます。
【申請書類の一例】
・配置図、平面図、建物の写真
・建物の登記全部事項証明書
・建物の賃貸借契約書の写し
・建物の検査済証の写し
・消防用設備等設置届書の写し
・事業計画書
・運営体制図
・安全管理計画書
・広報活動計画書
・職員の雇用契約書の写し
申請書類を提出する
申請窓口への予約が必要な場合は、事前に予約を行います。また、必要書類を郵送で受け付けている場合には到着期限に注意してご郵送ください。
申請者の事前の確認不足により、申請期限までに必要書類を用意できない場合、申請を受け付けてもらえない可能性もあります。
開業予定日が先送りになる措置(7月1日→8月1日など)も考えられますので、十分に注意をしましょう。
指定を受ける
指定決定通知書を受領します。
ステップ⑥開業
指定権者から指定を受け、開業日が決定しました。次に、開業までの準備期間で行うべきことをみていきましょう。
開業までの準備
開業予定日が決まり、いよいよ開業の直前期に入ります。
「利用者の募集」「スタッフの教育」「契約書、利用規約の作成」を進めていきます。
利用者の募集(HP、チラシ作成など広報活動)
施設のHP上のWebページ、チラシを作成し広報活動を行います。また、地域の連絡協議会に参加するなど対面での広報活動も有効です。
スタッフへの研修
良質なサービスを提供するためには、人材の育成が鍵になります。
知識や技術の偏りを無くすために、未経験者はもちろん、経験者にも研修に参加してもらうことでスキルの標準化を図ります。
障害者施設は、地域包括ケアシステム、地域の社会資源の一つとして地域への貢献が必要です。地域における施設の位置づけについて共通認識を持つなど、施設の目指す方向性の共有も重要です。
契約書、利用規約の作成
職員の雇用契約書、勤務シフト表、利用者の契約書、利用規約など、業務上必要な書類を作成していきます。
また業務マニュアルや業務上で使用するツール(業務日報、面談記録簿など)の導入も検討していきましょう。
まとめ
障害者施設を開業するまでの手順を6つのステップでご紹介しました。
施設の運営には設備基準、人員基準、運営基準の3つを満たす必要があり、指定権者からの指定を受けるまでには関係者との打ち合わせ、申請資料の作成など膨大な時間が掛かります。
また、それぞれの準備を並行して行うため、スケジュール管理と業務分担も肝心です。
開業予定日から逆算して、無理のないスケジュールを立てて進めていきましょう。
タカオでは、介護福祉施設や障害福祉施設全ての工程で様々なサポートをさせていただきます。
まずは、お気軽にご相談ください。