介護施設の経営する際、運営費の大部分を占めるのが「人件費」です。「人件費」は売上の6割〜7割を占めるといわれており、安定した利益を上げるためには固定費である「人件費」の管理は重要な要素の一つです。
そこで、この記事では厚生労働省の統計データをもとに「人件費」の目安についてご紹介していきます。介護施設運営のシミュレーションとして、ご活用いただけますと幸いです。
また、職員の「年齢」「勤続年数」「保有資格」など個人の属性ごとの平均年収をまとめています。職員を採用する際、採用コストの参考としてご確認ください。
こちらの記事を読むことで介護施設の経営についてイメージを膨らませましょう。
介護施設経営者の年収額は?
まずは介護施設運営の要となる「施設長」の年収額からご紹介します。
施設長は介護施設事業所におけるトップのことを指し、施設により所長、センター長、ホーム長などの名称で呼ばれています。
国民全体の平均年収は約318万円
施設長の年収額を確認する前に、日本における労働者全体の平均年収について見ていきましょう。
「令和5年賃金構造基本統計調査(厚生労働省)」によると、2022年度の労働者全体の平均年収は「318万3,000円」となっており、男女別では男性が350万9,000円、女性が262万6,000円と報告されています。
施設長(管理職)の平均年収は約427万円
今回、施設長の年収額を算出するにあたって令和4年度介護従事者処遇状況等調査結果(厚生労働省)の統計データを参照しました。
※同統計データ「介護職員の平均給与額等(月給・常勤の者)サービス種別別、職位別の一覧」では「管理職」と「管理職でない」の2つの職位で平均給与額が示されていますので、「管理職」のデータを元に分析を行っています。
早速ですが、2022年度の「施設長(管理職)」全体の平均給与額※は「35万6,570円」、年収換算をすると「427万8,840円」になります。
※平均給与額:基本給(月額)+手当+一時金(1月〜12月支給金額の12分の1)。
・介護施設管理職の平均年収額:35万6,570円×12カ月=427万8,840円(年収換算)
前述の労働者全体の平均年収「318万3,000円」と比較すると「109万5,840円」高くなっていました。
出典:令和4年度介護従事者処遇状況等調査結果(厚生労働省)P.145
最高額は介護老人福祉施設の約512万円
同統計データによると、介護老人福祉施設(特養)の管理職の年収が「512万5,680円」で最も高く、介護老人保健施設(老健)が「482万4,960円」で続いてます。
・介護老人福祉施設(特養):42万7,140円×12カ月=512万5,680円(年収換算)
・介護老人保健施設(老健):40万2,080円×12カ月=482万4,960円(年収換算)
介護老人福祉施設(特養)の年収が高い理由として、要介護度の高い利用者が多いこと、また社会福祉法人や自治体が運営しているケースが多いことが影響していると考えられます。
前述の労働者全体の平均年収「318万3,000円」と比較すると、それぞれ「194万2,680円」「164万1,960円」高くなっています。
最低額は通所介護事業所の約406万円
同様の方法で年収額を計算すると、通所介護事業所の管理職の年収が「406万4,280円」で介護施設の中では最も低く、次に介護訪問介護事業所が「407万1,480円」で続きます。
・通所介護事業所:33万8,690円×12カ月=406万4,280円(年収換算)
・訪問介護事業所:33万9,290円×12カ月=407万1,480円(年収換算)
施設長(管理職)は施設全体のマネジメントを担う立場のため、労働者全体の平均年収額「318万3,000円」と比較すると「88万1,280円〜194万2,680円」高い金額になっていることが分かりました。
h3管理職以外の月給・常勤職員、時給・非常勤の介護職員の年収額
尚「管理職ではない」月給・常勤の介護職員の平均年収は「369万6,840円(平均月収は30万8,070円)」、時給・非常勤の介護職員の平均年収は「144万1,920円(平均月収は12万0,160円)」となっています。
出典:令和4年度介護従事者処遇状況等調査結果(厚生労働省)P.146
各属性ごとの平均年収について
次に「性別」「勤続年数」「保有資格」各属性ごとの平均給与額、年収額を確認していきます。介護職員を雇用する際の参考としてご確認ください。
各属性に共通している点は以下の通りです。
①非常勤より常勤の給与額が高い
②介護職員の平均年齢が高い(常勤:44.7歳、非常勤:56.1歳)
性別
男女別の平均給与額、年収額を確認していきます。
「令和5年賃金構造基本統計調査(厚生労働省)」で示されている通り、全体的に女性より男性の給与額が高い傾向がありますが、介護業界では「男女間賃金格差が小さい」という特徴があります。
月給・常勤
月給・常勤の介護職員数全体で1万9,994名中、男性7,307名(36.5%)、女性12,687名(63.5%)という男女比になっており、全体の6割超を女性が占めていました。
・男性:33万4,250円×12カ月=401万1,000円(年収換算)
・女性:30万8,880円×12カ月=370万6,560円(年収換算)
男女ともに労働者の平均年収額「318万3,000円」よりも高く、また、男女間賃金格差については男性を100とした場合、92.4となっており、労働者全体の格差(74.8)より小さくなっています。
時給・非常勤
時給・非常勤の介護職員数全体で6,404名中、男性590名(9.3%)、女性5,814名(90.7%)という男女比になっており、時給・非常勤の介護職員は女性が圧倒的に多い構成です。
月給・常勤の労働者の実労働時間数が「163.7時間」であるのに対して、時給・非常勤の労働者の実労働時間数は「87.4時間」と約半分(53.3%)という事情もあり給与額に差が出ています。
・男性:13万4,210円×12カ月=161万0,520円(年収換算)
・女性:11万9,880円×12カ月=143万8,560円(年収換算)
男女ともに労働者の平均年収額「318万3,000円」の5割以下の金額、男女間賃金格差については小さい傾向にあります(男性を100とした場合、89.3)。
令和4年度介護従事者処遇状況等調査結果 厚生労働省老健局老人保健課
出典:令和4年度介護従事者処遇状況等調査結果(厚生労働省)P.172
出典:令和4年度介護従事者処遇状況等調査結果(厚生労働省)P.178
勤続年数別
勤続年数別の平均給与額を確認していきます。傾向としては、以下の点が挙げられます。
・月給・常勤は勤続年数が長さに比例して、平均給与額が増加している
・時給・非常勤は勤続年数が長くなっても、平均給与額はほぼ横ばいである
月給・常勤
下記の通り、勤続年数の長さと平均給与額が比例して増加しています。
また、勤続1年目の平均年齢が「38.7歳」ということから、中途採用者が多いことが推測されます。
・1年目の平均給与額「28万0,550円」
・5年目の平均給与額「30万5,970円」
・10年目の平均給与額「32万2,990円」
・15年目の平均給与額「34万2,590円」
時給・非常勤
下記の通り、勤続年数が長くても、平均給与額はほぼ変化がありません。
実労働時間数が多い7年目(13万0,010円)、16年目(13万8,320円)の2つの層で13万円を超えていますが、それ以外は10万後半〜12万円台で推移しています。
また、勤続1年目の平均年齢が「51.0歳」と50歳を超えていることから、時給・非常勤で働いている介護職員の年齢層が高いことも分かります。
・1年目の平均給与額「10万9,190円」
・5年目の平均給与額「11万6,170円」
・10年目の平均給与額「12万9,770円」
・15年目の平均給与額「12万0,210円」
出典:令和4年度介護従事者処遇状況等調査結果(厚生労働省)P.148
出典:令和4年度介護従事者処遇状況等調査結果(厚生労働省)P.160
保有資格別
最後に保有資格別の平均給与額を確認します。介護施設を運営するためには国が定めた「人員配置基準」の要件を満たす必要があり、人員に不足がある場合には介護報酬が減額(減算と言います)される可能性があるため注意が必要です。
例として「介護福祉士」「社会福祉士」「介護支援専門員」など有資格者の配置が必要になっています。それでは資格ごとの平均給与額を見ていきましょう。
月給・常勤
月給・常勤の職員の9割超(92.9%)が有資格者です。※20,176名のうち、18,753名。
所有資格の内訳は、介護福祉士が1万5,329名で全体の約8割(81.7%)を占めています。
平均給与額が最も高い資格が、介護支援専門員(37万6,770円)。最も低いのは介護職員初任者研修受講者(30万0,240円)となっています。
時給・非常勤
時給・非常勤の職員も有資格者が多く、約8割(81.2%)となっています。※6,457名のうち、5,248名。全体の約5割(52.2%)が介護福祉士です。
平均給与額の傾向としては、介護支援専門員(13万6,350円)が一番高額になっており、最も低いのは介護職員初任者研修受講者(11万5,790円)と月給・常勤の職員と同じ傾向になっています。
出典:令和4年度介護従事者処遇状況等調査結果(厚生労働省)P.166
出典:令和4年度介護従事者処遇状況等調査結果(厚生労働省)P.170
介護施設施設長の仕事内容
経営者の考え方、施設の種類、事業所の規模によって違いはあり、介護現場の業務を施設長に一任している経営者の方もいらっしゃいます。
ここでは、経営者がマネジメント業務も担う場合の参考として、仕事内容をご紹介します。
施設長は施設の責任者として「人」「サービス」「収支・運営」の3つの管理を行います。
人の管理
良質な介護サービスを提供するためには、スキルのある人材を確保することが重要です。
施設として目標とする介護サービスを実現するにはどのような人材が必要かを考え、経営ビジョンに合致した人材を採用することからスタートします。
採用後は一人一人のスキル、パーソナリティを活かせる人員配置を行ったり、勤怠や労務管理を行ったりと職員が働きやすいようにサポートが必要です。働きがいのある職場環境を構築していきましょう。
・募集、採用
・人員配置、育成
・勤怠、労務管理
サービスの管理
安定した介護施設運営を行うためには、利用者の満足度を高めることが大切です。「これからも利用したい」「この施設で生活したい」と思えるサービスを提供するためには、何が必要でしょうか。
適切なサービスレベルの管理(研修、講習会を通じた職員のスキルアップ、職員との定期面談によるフォローアップ)、介護保険法など関連法令の遵守が求められます。
利用者はもちろん、利用者のご家族に対しても定期的な面談を通したサービス内容の説明を行うとともに、介護のプロとしてご家族の困りごとに寄り添い、解決に導くサポートも忘れないようにしましょう。
・適切なサービスが提供できるレベルの管理、改善(研修、講習会、職員との定期面談)
・コンプライアンス順守の徹底
・ご家族との定期的な面談、困りごとの解決
収支、運営管理
施設長は介護サービスの責任者であると同時に経営者でもあります。経営計画を策定し、売上、利益の管理も行います。
経営を継続するために収支を正確に把握し、利用者の募集を行い施設稼働率を上げる、契約内容を見直すなど営業的な活動も求められます。
・経営計画の策定
・売上管理、利益管理
・利用者の募集、施設稼働率の管理
介護施設施設長に必要な資格要件
介護施設の種類によっては施設長に必要な資格、要件があります。
「特別養護老人ホーム」「介護老人保健施設(老健)」「グループホーム」「その他」についてご説明します。
介護老人福祉施設(特養)
介護老人福祉施設(特養)では、下記3つの資格要件のうち、いずれか1つを満たす必要があります。尚、管理者の場合は、資格要件はありません。
(1)社会福祉主事の要件を満たす者
(2)社会福祉事業に2年以上従事した者
(3)社会福祉施設長資格認定講習会を受講した者
介護老人保健施設(老健)
介護老人保健施設(老健)は、介護保険法第95条で「原則、医師がなること」と定められています。しかし、都道府県知事の承認を受けることを要件に、医師以外の方でも施設長になることも可能です。
出典:介護保険法
認知症グループホーム
認知症グループホームの管理者は、下記2つの要件のいずれも満たす必要があります。
(1)認知症介護に3年以上従事したもの
(2)認知症対応型サービス事業管理者研修を修了した者
出典:認知症対応型共同生活介護(認知症グループホーム)厚生労働省
資格を求められているわけではありませんが、職員の指導を行う立場になるため、介護福祉士や介護支援専門員の資格を有していることが望ましいでしょう。
その他
有料老人ホーム、デイサービスには一律で定められている資格要件はありません。介護現場における経験者、資格保有者を優遇している傾向があります。
まとめ
介護施設を運営する際に掛かる支出のうち「人件費」についてご説明させていただきました。
介護施設の施設長の年収額は、労働者全体の平均年収額「318万3,000円」と比較すると「88万1,280円〜194万2,680円」高いことが分かりました。
また、介護職員を採用する際は人員配置基準を満たすことを前提として、人件費の側面から常勤、非常勤の人数、年齢構成のバランスを考える必要があります。ご参照ください。
介護施設の運営に必要な人件費の目安を把握することにより、収支のシミュレーションにお役立ていただければ幸いです。
収支のシミュレーションについての詳細はこちらの記事をご参照ください。
https://www.takao-net.jp/media/1940/
「介護施設を経営しているオーナーがどれくらい収入あるのか」